坪谷にひびくしみる瀬の音ー第67回牧水祭
2017-09-19
「溪の瀬のおとはいよいよ澄みゆき夜もふかめどいづくぞやわがこころは」(若山牧水『みなかみ』より)
日向市東郷町坪谷にて牧水祭挙行
台風18号は宮崎・大分にも傷跡を残し列島を縦断していった。被災した方々に心よりお見舞い申し上げます。一転、18日は台風一過の快晴を望むなか1日延期となったが、「第67回牧水祭」が坪谷の生家前で挙行された。日向市の十屋市長のご挨拶から始まり、教育長をはじめ牧水顕彰会の方々が参列し、夫婦歌碑に献酒がおこなわれてゆく。前日の予定では伊藤一彦さんと対談予定であったこともあって、小生も「代表献酒」の一人として牧水の刻まれた歌に酒を献じた。「をとめ子のかなしき心持つ妻を四人子の母とおもふかなしさ」が牧水の歌。「うてばひびくいのちのしらべしらべあひて世にありがたき二人なりしを」が妻の喜志子の歌。個人的には牧水歌の「おもふかなしさ」の一句がいつもこころに響くので、ここにたっぷりと酒を染み込ませ、牧水の魂と対話をした気持ちとなった。
その後、前日に懇談の席をご一緒させていただいた、牧水のお孫さん・榎本篁子(えのもと むらこ)さんらとともに生家へ。牧水が生まれ落ちたという縁側、土間からの上がり口などに座り写真撮影。通常は一般公開をしていない二階まで上げていただき牧水を偲んだ。伊藤一彦さんのこの歌はこの納戸で詠んだといった解説もあって、牧水の坪谷への帰郷時の心境が深く想像できた。この点はまた稿を改めて論じたい。今回の対談で語ろうと思っていたことは、この坪谷という土地の「瀬の音」である。生家の眼前には坪谷川が極端に湾曲しており、山から流れ来る急流に瀬音も激しい。牧水が幼少の頃から育つ過程で、常にこの瀬音を耳にしてそのリズムが身体化されていたのではないかと想像できる。冒頭の歌は坪谷帰郷時のものだが、「瀬のおと」が澄みゆく中で、自らのあてどないこころを見つめ直していると読むことができる。牧水が「聲」(聴覚)にこだわるのは、こんな生家の環境に起因していると考えたい。
牧水の産声も聞いたであろう生家前の栴檀の樹
この生家を起点とし牧水は人生という壮大な旅を続けた
牧水・喜志子の夫婦関係にも思いを馳せ宮崎市への帰路についた。
- 関連記事
-
- 「白つゆか玉かとも見よ」ー牧水歌と『伊勢物語』 (2018/05/15)
- 啄木と牧水の「いのち」ー牧水研究会・国際啄木学会宮崎大会 (2018/05/13)
- あくがれを愛する会ー日向の宵に (2018/03/20)
- 若者たちよ!いざ牧水を語ろうー牧水没後90年企画 (2018/02/19)
- 「染まずただよふ」時空にありたし (2018/02/16)
- 牧水没後90年に向けてー牧水研究会総会 (2017/12/24)
- 出自と家業と志ー牧水の”後ろめたさ”に学ぶもの (2017/12/10)
- 坪谷にひびくしみる瀬の音ー第67回牧水祭 (2017/09/19)
- 牧水の繋ぐ縁よいまここにあり (2017/09/18)
- 自然のことゆえ穏やかに (2017/09/16)
- 学校にもの読める声のなつかしさー牧水の耳 (2017/09/10)
- 秋ぞ立ついざみづからを新しくせよ (2017/09/08)
- 牧水の「身体性」そして「万葉集」ー牧水を語り合う会 (2017/08/14)
- 強い心は静かで素直である (2017/07/04)
- ひとすぢにただ山の恋しき (2017/05/31)
スポンサーサイト
tag :