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「尾鈴山鶏」をどう読むか?

2016-10-02
「ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り」
(若山牧水『みなかみ』より)
「osuzu」「尾鈴の山」「尾鈴山」「山鶏」・・・

日向市東郷町の牧水の生家周辺もそうであったが、まさしく「地産地消」というか「食糧自給率」の高さを実感することがある。路傍の野草や樹々に実った栗、柿や”へべす”などの果実類、もちろんお米も地元の田んぼから、それに加えて川で「刺した」鮎などの魚介類、そして猪肉に至るまで、地元の「猟師」の方の手により「食材」が供給されていると聞かされた。まさに原初的な農耕田園生活とでも言えようか。さらに大規模な流通・生産ばかりに目が眩んだ現代社会において、大変貴重な「生活感覚」であると思われた。とはいえ、なかなか僕自身がそのような生活を実行するのは難しく、だいたいにして「虫」や「爬虫類」を忌避する性分からして無理があるとも言えるかもしれない。都会生活が長く「温室」育ちという人間は、なかなか「自然と共存」することも難しい。

珍しく安らいだ休日を迎えたので、イタリアンレストランへと食事に出掛けた。以前から「ピザ」が美味しいと聞いていたので、ぜひ行きたかった1軒だ。メニューを見ると様々なオリジナルが並んでいたが、その中の「osuzu」という一品に目が止まった。”ローマ字”表記で「メニュー」に並ぶと何のことか?と思ったが、”但し書”を読むと「尾鈴山鶏」を使用したピザであることがわかった。即座に冒頭に記した牧水先生の歌を思い浮かべ、その一品に食指が伸びた。注文時に店員さんに内容を確かめると、彼は「尾鈴/山鶏」という節目で発音した。日常から言葉に注視してしまう性分であるから、意味的には「尾鈴山/鶏」ではないのかと心の中で呟いた。だが心の中で呟く分にはまだしも、発音すると多くの人が「尾鈴/山鶏」となってしまう。総計「七音」の語句は発音する際に「三音/四音」で切れ目を入れて読むことになる。「五音/二音」というのは、音節的に大変不安定な発音となってしまう。だが意味の上では「尾鈴/山鶏」と読むと、「尾鈴の山鶏」と理解され、まだ「鶏」の文字が使用されてはいるが、どうしても百人一首歌にある「あしひきの山鳥の尾の・・・」が連想される。さすれば、「山で捕獲された鳥」が使用された貴重なピザなのかと妄想が広がった。店員さんの弁では、「尾鈴山」周辺の川南町で放し飼いにされ天然生育された「鶏」のことであるらしい。牧水の歌は「尾鈴の山」となっているように、意味的実態は「尾鈴山の鶏」ということだ。些細なことであるが、短歌などに意識を持つと料理店のメニューひとつの「読み方」でも楽しめるものだと、さらに穏やかな食事の時間となった。

「日向なるおすずやまどり楽しさよ秋もせぬまま微笑みて居り」
などと本歌取りを楽しんでみたりした。
日常言語生活を豊かにする「国語教育」を模索し、自らが実験台となって歩みゆく。
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