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矛盾の均衡が求められる言葉

2016-07-16
「大胆かつ細心たれ」
「悠々として急げ」
矛盾し相反する心の持ち様を兼ね備えるということ

いよいよ、教員採用一次試験の時季となった。ゼミの4年生は全員が、この関門に挑戦する。出陣に当たって声を掛けて激励したいと思ったが、なかなか時間が合わず。大学構内で会えた学生もいたのだが、最終的にはメールで言葉を贈ることにした。それは月並みであるが「大胆かつ細心たれ」という言葉。受験というものは、細部にこだわりすぎて時間を浪費し、できる問題もできなくなるのが一番よくない事態である。決して「満点」が求められるわけではないので、「大胆」に攻めつつも、「細心」の注意も怠らないという姿勢が肝要であろう。特に生真面目な学生が、この「大胆」さに欠ける傾向があるように思う。所謂「完璧主義」的な発想でいると、社会でも憂き目を見ることが多い。せいぜい7〜8分で十分に達成、あとの2〜3分は脇を甘くしておいて、他者を立てるというのも、人間関係を潤滑に運ぶには有効な姿勢であるように思う。

「悠々として急げ」、この名言もまた矛盾を孕んでいる。ある知人の方が最近、この言葉を掲げて関門を突破し、そしてまさにその境地を実感したと述懐していた言葉である。出典はどうやら開高健の小説らしいので調べてみると、『河は眠らない』(2009文藝春秋)や『風に訊け』(1984集英社)の中に見える警句である。その一部を引用するならば「魚釣りも一瞬である。そのときの手がおくれるとだめだ。同時に一方、ゆったりとした気持でもなければならない。」という文脈の中で「フランスの王様」が「ラテン語」の類した諺を「座右の銘」にしていたことから「訳してみると」、という場面で登場する言葉だ。僕自身はあまり魚釣りを好まないが、どうやら人生は魚釣りの如きものというのが、開高の小説から読み取れる。「一瞬」においては決して「手がおくれる」ことなく俊敏に対応しつつ、「ゆったりとした気持ち」がなければその「一瞬」にすら到達できないということである。

冷静かつ情熱を持った男
昔、ハードボイルド小説に凝った折に読み取ったダンディズムの境地も
世は、一方に偏ることの方が危険であるということだろう。
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