7月6日は『サラダ記念日』
2016-07-07
「この味がいいね」と君が言ったから7月6日はサラダ記念日(『サラダ記念日』より)
世間を席巻したブームから30年目の7月6日
角川書店の雑誌『短歌』7月号は、「30年目のサラダ記念日」を特集として、俵万智さんのロングインタビューを、聞き手・伊藤一彦先生にて掲載している。東京・宮城・沖縄・宮崎と移住を繰り返してきた万智さんのこれまでの人生や、『サラダ記念日』出版当初から現在に至るまでの歌人としての芯のある活動と変遷が、豊かなことばで語り合われていて大変興味深い。先月宮崎市内で開催されたトークショーでも、同様の感慨を覚えたのだが、歌人というのは日常から「ことばを他者に伝えること」を念頭に置いているせいか、トークやインタビューを行っても大変わかりやすい内容になるということ。そのトークショーでの万智さんの名言「短歌は日記ではなく手紙」であるという弁は、誠にこの伝統的な文芸の核心を言い当てているようである。実際に短歌創作に勤しんでみると、自分の掴み取った題材による心の振幅を、他者にわかるように三十一文字に収めるのは、そう簡単なことではないと同時に、実はとても素朴な行為なのだと思うことがある。あらためて万智さんの短歌に潜んでいる「伝える力」の偉大さに、敬服する30年目を迎えたのである。
朝一番で車に乗ってエンジンを始動すると、「今日は・・・・の日です。」と必ずその日にまつわることをカーナビが発言する。現在の車種になってこの日が初めての「7月6日」であったゆえに、前車と同様に「サラダ記念日」と言うや否やと興味深く思いながら、エンジンスイッチを押した。するとやはりこの日は「サラダ記念日」と宣言したので、まさに「やってくれるじゃないのと思う」といった感慨で大学へ向けて車を走らせた。それはある種、生活実感の中に俵万智『サラダ記念日』という文学の一つの金字塔が樹立し、僕たちの日常において日本語の美しさや表現の豊かさを自覚できる、大きな功績に対する敬意を覚えることなのである。世情は「人文学不要論」渦巻く、世知辛い強風が吹き荒れる。だがどんな時代のどんな風当たりの中でも、1300年以上も息づいてきた「短歌(和歌)」という表現形式が、現代語を寛容に抱擁し同時代の変化の速い生活実感を鋭く捉えていることの歓びと可能性を、『サラダ記念日』は伝え続けてくれるのである。中学校教科書にも掲載されている「「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ」という歌は、今回のロングインタビューでも取り上げられているが、人と人とのつながりの大切さと妙を、万智さんの短歌は僕たちに語り続けてくれるのである。『短歌』7月号には、万智さんの新作50首も掲載されていて、宮崎に移住後に詠んだと思われる作も多い。同世代人として、そして今や同じ街の住人として、今後も万智さんから学べることの幸福をあらためて感じた7月6日であった。
ことばと伝えることの限りなき旅路のうちに
今、此処で30年目の『サラダ記念日』に出会い直す
1987年(昭和62年)当時の僕自身を思い返し、長くも短き道のりを想う。
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