老いてなお魅せる技"TOTO"
2011-09-28
“TOTO”というとたいていの人が、毎日何回か密室の中でお目にかかるブランド名を思い浮かべるであろう。しかし80年代の全米ロックに興味をお持ちの方なら、ミュージシャンとしてのグループを思い浮かべるはずである。07年に事実上の解散宣言をしていたTOTOが久し振りにジャパンツアーを行っている。主力メンバーであったベイシストのマイク・ポーカロが闘病中であり、その支援の為にメンバーが再結集したという経緯である。この日は、待ちに待った武道館公演であった。当初は5月末に予定されていたジャパンツアーが、東日本大震災の影響で延期となっていた。ライブの聖地でもある武道館に開場前から足を運ぶと、予想以上の混雑。平均年齢はやや高いものの、ロックの真髄を求めたファンたちが集まり始めていた。お堀を越えて坂を上り正面入口の公演看板を見上げると、自ずと興奮度が増してくる。TOTO人気の根強さを感じるに十分な雰囲気が醸し出されていた。
ステージが開演すると、TOTOらしい音が鳴り響いた。スタジオミュージシャンとして数多くのアーティストの音を根底から支えて来たという経歴を持つ。その演奏における基本技の精度の高さは折り紙つきだ。歌曲部分はもちろんであるが、それだけでなく曲の間奏や前後で弾き回す部分に一層魅せられてしまう。スティーブ=ルカサーの堂々たる刺激的なギター音。デビッド=ペイチの神業的な鍵盤展開。サイモン=フィリップスの奔放なスティックさばき。スティーブ=ポーカロの老練たるキーボード音。ジョセフ=ウイリアムスはやや太めになったが、ボーカルとしての活発さと高音の張りは健在。ヘルプ的なベイシスト・ネーザン=イーストが控えめながら、堅実にリズムを支え続ける。ほぼ演奏として完璧とも言えるステージが2時間ほど展開された。
メンバーの外見に年老いた影があるのは否めないが、その基本技に支えられた演奏は、今なお多くのファンを魅了したといってよい。やはり音楽に限らないが、その基本的技術を基盤に持っているということはなによりも強い。過去の遺産でライブをするという姿勢ではなく、そのライブ演奏の魅力はいまなお健在という印象を持った。
特にデビッド=ペイチのキーボードを見ていて、自らも鍵盤を基本から学んでみようかなどという悪足掻きを妄想するような思いに至った。幼稚園の時のエレクトーン教室で挫折した時のリベンジ。音楽に親しむのは時を選ばないことをTOTOは教えてくれた。
基本の大切さというのは、偉大な人物の共通条件である。
それは言葉でわかっていても、なかなか実践できないものである。
熟練したTOTOの演奏は、そんな基本技の重要さを再認識させてくれた。
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