アジアの競演―「妖艶」対「堅実」
2010-02-25
24日(水)バンクーバー冬季五輪も終盤戦。この日はフィギュアスケート女子のショートプログラムが行われた。かつて野球の日本シリーズが昼間に行われていた頃、学校の休み時間にその途中経過を先生に尋ねたり、はてまた学校にラジオを持ち込んで盗み聴きしたり。職場にあっては、TVが暗黙の中で解禁になり、仕事の合間に同僚とにわか評論を対峙させたりと、それはそれでコミュニケーションの活性化に役立っていた気もする。今や時差の為せる技で、このような時にしか昼間のスポーツ観戦機会はない。
浅田真央とキム・ヨナの2人の対決が、注目を集めたこの五輪であったが、それ以外にも悲喜交々のドラマがあったようだ。カナダのジョアンニ・ロシェットは、応援に駆け付けようと東海岸を出発した母が急逝。その悲しみを背負いながら、演技ではほぼ自分の力を出し切った。その精神力やアスリートとして高く評価すべきであると感じる。肉親の死という大きな心の痛手に、自分が立ち向かいつつ通常の力を出し切るというのは、並大抵なことではないと想像する。演技終了直後に見せた大粒の涙を、母は天国から優しい微笑みで見つめたことだろう。彼女の今後の活躍にも大いに期待したい。
安藤美姫は4位。ジャンプのパワーを前面に出した前回のトリノ五輪に比べると、その変身ぶりは目を引くものがある。コーチを変えたことが、そのスタイルの変更に直結しているようだが、現在の採点基準からいくと、妥当な演技内容になっていると評価できそうだ。色白で売り込むことが多い選手の中で、敢えて浅黒く肌を焼いて五輪に臨んだことも、話題を呼んでいた。
浅田真央はほぼベストな演技で、今季の自己最高点。女子フィギュア史上初の、3回転半の成功が認定されたという。一時期はスランプに陥り、ジャンプの成功率も低かったのだが、この五輪に合わせてベストに調整してきたことが覗える。少女時代の面影を残しつつも、19歳の成長した演技は、「堅実」さと秘めたる跳躍力に支えられ、バンクーバーの氷上に舞ったのである。
一方、韓国のキム・ヨナ。浅田がベストな演技を終えた後に、リンク脇で控えている表情をカメラが捉えたが、チラッと見せる不敵な笑み。その笑顔の奥に秘めた闘志と自信は、その直後の演技により確信に変わる。ジャンプの回転数こそ浅田より少ないのかもしれないが、その回転の艶やかさや、着氷直後に見せる肢体とその表情は「妖艶」ということばで、どれほど言い得ているだろうか。さらには、007をモチーフにした、そのダンス的な要素は、フィギュアという競技の性質を別なカテゴリーに越境させるような魅力がある。まさにパワーのみならず、芸術性を極めた演技といってよいだろう。
採点競技の規準は素人である我々にとって、完全には理解しかねるが、総合力でキムが1位となったのは、十分に肯ける結果であろう。しかし、この五輪のフィギュア女子は、アジア人の活躍が目立つ。従来、ロシアやアメリカ選手の活躍が目立った時期もあったが、アジアの力量が「妖艶」対「堅実」という図式で頂点を競うのは、同朋として心強い。同時にスピードスケートなどでの韓国の躍進は、野球の実力が伯仲している事とも併せ考えて、日本のライバルとして手強い存在となっていると感じざるを得ない。単に対抗意識が表面化するのではなく、相互にスポーツを通して高いレベルで競い合い、その友好度を深めた交流の契機になれば何よりである。
フリーの演技は、金曜日の午前から昼にかけて行われる。また学校や職場で、勉強や仕事のみではないというべく、巷間の人間的なコミュニケーションを活性化させるアジアの競演が展開されるのである。
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